福岡地方裁判所 平成5年(行ウ)22号 判決 1995年11月16日
福岡市早良区飯倉四丁目二二番五号
亡鶴田久人承継人
原告
鶴田ツタエ
同所
亡鶴田久人承継人
原告
鶴田容子
右両名訴訟代理人弁護士
丸山隆寛
同
桃原健二
福岡市早良区百道一丁目五番二二号
被告
西福岡税務署長 樋口隆造
右訴訟代理人弁護士
國武格
右指定代理人
阿部幸夫
同
岡本修一
同
石橋一男
同
福岡久剛
同
田島敏行
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が亡鶴田久人に対して平成三年三月一五日付けでした、同人の昭和六二年分の所得税についての更正のうち、損益通算後の分離長期譲渡所得金額一三億〇八〇二万六六六三円、納付すべき税額金三億八六一六万四八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
第二事案の概要
本件は、被告が昭和六二年分の所得税の青色確定申告の修正申告に対してなした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分について、被課税者の相続人らが、右更正処分が違法なものであるとしてその更正処分のうち修正申告額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分の取消しを請求した事案である(なお、本件においては、後記のとおり審査裁決によって右各処分の一部が取り消されているから、取り消しの対象は、いずれも審査裁決により一部取り消された後のものとなる。)。
一 前提となる事実(争いのない事実等)
1 本件における課税処分の経緯(甲第五号証、乙第一、第二号証、第一四号証の一ないし三、第一五、第一六号証の各一、二、第一七号証の一ないし三)
(一) 亡鶴田久人(以下「久人」という。)は、ゴルフクラブの製造販売及びゴルフ練習場に係る事業を営む青色申告者であった。
(二) 久人の昭和六二年分の所得税について、久人がした確定申告、右所得税の修正申告及びこれに対して被告がした更正、過少申告加算税賦課決定並びに右処分に対して久人がした不服申立て及びこれに対する審査裁決の経緯は、別紙経過一覧記載のとおりである(以下において、右久人による確定申告を「本件確定申告」、同じく修正申告を「本件修正申告」といい、本件修正申告に対して平成三年三月一五日になされた被告の更正及び過少申告加算税賦課決定処分を「本件各原処分」と総称し、このうち更正については「本件原更正処分」、過少申告加算税賦課決定処分については「本件原過少申告加算税賦課決定処分」といい、久人による異議申立を「本件異議」、それに対する被告による棄却決定を「本件異議決定」、久人による審査請求を「本件審査請求」、国税不服審判所長による一部取消しの審査裁決を「本件審査裁決」といい、本件各原処分のうち、本件審査裁決により取り消された部分を除くその余の処分を「本件各処分」と総称し、そのうち更正については「本件更正処分」、過少申告加算税賦課決定処分については「本件過少申告加算税賦課決定処分」という。)が、久人は、右一連の手続を、いずれも鶴義幸税理士(以下「鶴税理士」という。)に依頼して行った。
(三) 本件修正申告、本件原更正処分及び本件審査裁決の内容の比較は別表8(本件修正申告、本件各原処分及び本件審査裁決の比較表)記載のとおりであり(なお、同表の「修正申告」欄は、本件修正申告の内容に、「更正処分」欄の<1>ないし<7>は本件原更正処分の内容に、同欄<8>は本件原過少申告加算税賦課決定処分の内容に、「審査裁決」欄は本件審査裁決の内容に、同欄<7>は本件更正処分の内容に、同欄<8>は本件過少申告加算税賦課決定処分の内容に、それぞれ該当する。)、被告が本訴訟において主張する所得金額等は、同表の「審査裁決」欄記載のとおりである。
2 本件における買換えの経緯(甲第一号証の二ないし四、第六号証、乙第一号証、第五号証、第一一号証、証人鶴義幸、亡久人本人。ただし、証人鶴、亡久人本人については、いずれも後記採用しない部分を除く。以下同じ。)
(一) 久人は、昭和六二年一〇月ころ、前記ゴルフクラブの製造販売等の事業を廃止し、同年一一月四日、その所有に係る一部居住用部分を含む当該事業用の土地(福岡市中央区大名一丁目二二三番及び二二四番所在の宅地。以下「本件譲渡資産」という。)を、価額金二一億四七〇二万六三二九円で譲渡したが、右譲渡に際しては、本件譲渡資産上に存在していた三階建鉄筋店舗(不動産登記簿上、建物の種類は「店舗兼居宅」は、取得日は昭和三四年六月一〇日、床面積は一階八一・四二平方メートル、二、三階各八二・九四平方メートル。以下「本件鉄筋店舗」という。)、モルタルインドア(不動産登記簿上、建物の種類は、「遊技場」、取得日は昭和二八年七月一〇日、床面積は一六一・九八平方メートル。以下「本件モルタルインドア」という。)及び本件モルタルインドアの付属建物二棟(不動産登記簿上、建物の種類は「工場兼居宅」と「事務所兼居宅」、取得日はいずれも昭和二八年七月一〇日、床面積は、「工場兼の居宅」が一階四七・一平方メートル、二階五二・〇六平方メートル、「事務所兼居宅」が一、二階各二三・一四平方メートル。以下右「事務所兼居宅」の付属建物を「本件付属事務所」という。)の四棟の建物(その床面積合計は、五五四・七二平方メートル。以下、右四棟の建物を「本件地上建物」と総称する。)を取り壊している。なお、本件鉄筋店舗の二階部分と本件付属事務所の二階部分(床面積合計一〇六・〇八平方メートル)が、居住用として利用されていたことについては、当事者間に争いがない。
(二) 久人は、本件譲渡資産の譲渡について、昭和六三年法律第四号による改正前の租税特別措置法(以下「措置法」という。)三六条の二による居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例及び措置法三七条による特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例の適用を受けるため、昭和六三年三月一〇日、被告に対し、買換承認申請書を提出した(措置法三六条の二第二項、三七条三項)。右承認申請による買換特例の適用のための買換資産の取得期限は、昭和六三年一二月三一日である。
(三) 久人は、昭和六三年、居住用買換財産として、福岡市早良区飯倉四丁目一六番五号所在の土地・建物を取得(土地は、同年三月二四日に買受取得。建物は、同年一二月二二日に新築取得。)したが、右居住用土地・建物は、措置法三六条の二に規定する買換資産に該当する(以下「本件居住用買換資産」という。)。
(四) 久人は、昭和六二年一二月、共同住宅「サンライト室見」(福岡市早良区南庄六丁目一一七番地所在。以下「サンライト室見」という。)を新築して取得したが、「サンライト室見」は、措置法三七条に規定する買換資産に該当する。
(五)(1) 久人は、昭和六三年八月二七日ころ、事業用買換資産取得のために、有限会社広和住宅(組織変更及び商号変更により、現在は株式会社広創建設。以下「広和住宅」という。)との間で、共同住宅「サンライト原」(福岡市早良区原五丁目一三二一番地五所在。以下「サンライト原」という。)の建築請負契約を締結したが、右請負契約によれば、完成予定日は平成元年二月末日であり、請負代金は金一億八四〇〇万円、支払については、契約成立時に金六一〇〇万円、昭和六三年一一月末日に金六一〇〇万円、完成引渡時に金六二〇〇万円をそれぞれ支払うこととされていた。なお、右建築請負工事においては、「サンライト原」に係る建築材料は、すべて広和住宅が提供している。
(2) 「サンライト原」については、登記原因を平成元年二月一六日新築として平成元年二月一八日付けで表示登記がされ、同年二月二三日付けで久人名義の所有権保存登記がなされている。
(3) 「サンライト原」の建築代金は、昭和六三年九月二〇日及び同年一二月二二日それそれ金六一〇〇万円ずつ、平成元年三月二二日に金六二〇〇万円が支払われ、右平成元年三月二二日の支払と引き換えに、久人に対して、鍵が引き渡された。
(六) 久人は、昭和六二年三月、有限会社ケージーアール出版(以下「ケージーアール出版」という。)がゴルフのマナービデオ(以下「本件ビデオ」という。)を制作するに際し、同社に対し、その制作費用として金一〇〇〇万円を支払った。
3 当事者双方が主張する事業所得の金額の算定根拠(乙第一、第二号証、第五号証、第一四号証の一、第一五号証の二)
(一) 本件修正申告(本件確定申告に同じ。)における事業所得の金額の計算は、別表2(昭和六二年分所得税の確定申告中の事業所得の損失額の計算)記載のとおりであるところ、必要経費の金額(必要経費に算入される減価償却費及び資産損失の額)以外に、当事者間に争いはない。
(二) 本件修正申告(本件確定申告に同じ。)における前記減価償却費及び資産損失額の計算は別表9(確定申告額に係る減価償却費の計算明細表)記載のとおりであり、被告の主張する減価償却費及び資産損失額の計算は別表10(減価償却費の計算明細表)記載のとおりである。
4 当事者双方が主張する分離長期譲渡所得の金額の算定根拠(乙第一、第二号証、第五号証、第一四号証の一ないし三、第一五号証の一、二)
(一) 本件修正申告における分離長期譲渡所得の金額の計算は別表5(昭和六二年分所得税の修正申告中の分離長期譲渡所得の金額の計算)記載のとおりであり、被告の主張する分離長期譲渡所得の金額の計算は別表11(被告主張の分離長期譲渡所得の金額の計算)記載のとおりである。右計算においては、本件譲渡資産の居住用部分の割合をいずれも二〇パーセントとして計算がなされているが、原告らは、本件請求では、右割合を三四・〇七五パーセントと主張しており、それぞれの計算の根拠は別表12(本件譲渡資産の居住用割合の算出根拠)記載のとおりである。
(二) 久人は、本件修正申告において、本件居住用買換資産の取得費として、金四億三六〇三万六二八六円を計上しているが、被告は、右取得費のうち建物の火災保険料金三一万二七五〇円につき、取得費該当性を否定している。
(三) 同様に、久人は、「サンライト室見」の取得費として、金一億〇五五七万九六五〇円を計上しているが、被告は、右取得費のうち、不動産取得税金六六万〇五〇〇円及び建物の火災保険料金五万二五〇〇円につき、取得費該当性を否定している。
(四) 原告らは、「サンライト原」及び本件ビデオの制作費用が、本件譲渡資産の譲渡所得について事業用の買換資産に当たると主張し、「サンライト原」の建物取得費として金一億九一一六万二二三〇円、本件ビデオの制作費として金一三八〇万〇八〇〇円を計上しているが、被告は、これを否定している。
5 久人は、平成七年六月二〇日死亡し、原告鶴田ツタエは久人の妻、原告鶴田容子は久人の長女である(争いがない。)。
二 争点
1 本件原更正処分に係る久人に対する更正通知書(以下「本件通知書」という。)が所得税更正期限内に久人に対して送達されたか否か。
(被告の主張)
本件通知書は、所得税更正期限である平成三年三月一五日、久人自身に対して交付送達されている。
(原告らの主張)
久人が、本件通知書の送達を受けたのは、平成三年三月一六日以降であり、本件更正処分は無効である。
2 本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合について
(一) 更正期限後の理由の差し替えの許否
(原告らの主張)
被告は、更正期限後に、本件譲渡資産の居住用部分と事業用部分の割合に関する主張を変更しているが、これは理由付記の趣旨に反するものであり、期限後の理由の差し替えは認められない。
(二) 本件原更正処分において、本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合の認定に論理矛盾が存在することが本件更正処分の取消事由となるか否か。
(原告らの主張)
被告は、本件原更正処分において、事業所得の減価償却費の算定におけるのと分離長期譲渡所得の金額の算定におけるのとで、本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合の認定に論理矛盾を犯しており、このことは、本件更正処分の取消事由となるものである。
(三) 本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合(本件鉄筋店舗の三階部分が居住用として使用されていたか否か。)
(被告の主張)
(1) 本件譲渡資産においては、その地上に存在した本件鉄筋店舗に二階部分及び本件付属事務所二階部分の合計一〇六・〇八平方メートルが居住用部分であったことにより、これを本件譲渡資産上に存在した本件地上建物の合計床面積五五四・七二平方メートルで除した約二〇パーセントが居住用部分の割合となり、その余の約八〇パーセントが事業用部分の割合となる。
(2) 久人自身、本件確定申告及び本件修正申告における譲渡所得の計算において、居住用部分と事業用部分の割合を、二対八として申告している。
(原告らの主張)
(1) 本件地上建物のうち、本件鉄筋店舗の二、三階部分及び本件付属事務所二階部分の合計一八九・〇二平方メートルが居住用部分であったのであり、その割合は三四・〇七五パーセントとなる。
(2) 居住用部分と事業用部分の割合は、使用の実態に応じて決まるものであり、買換承認申請をした者の申告によって決まるものではない。
3 事業所得の損失額について
(一) 減価償却費について
(被告の主張)
(1) 「工場改装」について
久人の昭和六二年分所得税青色申告決算書(以下「昭和六二年分決算書」という。)に記載されている「工場改装」の取得価額が、昭和六〇年分の同決算書(以下「昭和六〇年分決算書」という。)に比して金五〇〇万円増加しているが、その根拠が明らかにされていないから、償却の基礎となる金額の算定は、昭和六〇年分決算書に記載されている取得価額金三一七万二一〇〇円を基準とすべきである。
(2) 「屋上防水」について
昭和六二年分決算書に記載されている「屋上防水」の取得価額が、昭和六〇年分決算書に比して金五〇〇万円増加しているが、その根拠が明らかにされていないから、償却の基礎となる金額の算定は、昭和六〇年分決算書に記載されている取得価額金二三〇万円を基準とすべきである。
(3) 「事務所他一階」について
昭和六〇年分決算書には記載されていなかった当該資産が、昭和六一年分から突如として取得価額金一五三二万四〇〇〇円の資産として計上されているが、その根拠が明らかにされていないから、右「事務所他一階」については、償却は認められない。
(二) 資産損失について
(被告の主張)
(1) 前記(一)の被告の主張に基づき、久人の事業用減価償却資産の除却時点における帳簿価額を計算すれば、別表10記載のとおり、その合計額(未償却残高)は金五〇九万七九一二円となる。
(2) 建物及び構築物の除却損額金四六八万五二七七円については、当該建物及び構築物の除却損が資産の譲渡に関連して取り壊され又は除却されたものに該当することが明らかなので、所得税法五一条一項により、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できない。
(3) 車両の除却損額金三万二九三円については、除却した事実が認められないので、同様に、必要経費に算入できない。
(三) 事業所得の損失額の算定
4 分離長期譲渡所得の金額について
(一) 「サンライト原」の買換資産該当性の有無
(1) 「サンライト原」の取得が、買換資産の取得期限(昭和六三年一二月三一日)内てあったか否か。
(被告の主張)
措置法三七条に規定する買換資産の「取得の日」とは、その立法趣旨に鑑み経済的実質的に把握されるべきであるから、一般私法上の「所有権取得の日」と同一ではなく、他に請け負わせて建設した資産についてはその資産の引渡しを受けた日と解されるところ、「サンライト原」が広和住宅から久人に引き渡されたのは平成元年三月二二日であるから、買換資産の取得期限(昭和六三年一二月三一日)までに取得されていない。なお、かかる取扱いは、相続税の場合の取扱いと矛盾をきたすものとはいえず、また、「サンライト原」が区分所有建物とみられるか否かは、かかる取扱いに影響を与えるものではない。
(原告らの主張)
<1> 昭和六三年末の時点で建物本体はほとんど完成したおり、建物として登記できる状態であったこと、建築代金についても買換資産の取得期限までに約三分の二が支払われていたことに照らせば、「サンライト原」の所有権は、遅くとも昭和六三年一二月三一日までには、注文者である久人が取得したというべきである。
<2> 本件において、「サンライト原」につき引渡がないとの理由で買換資産性を否定する取扱いは、相続税の場合の取扱いと一貫性を欠く(相続税財産評価基本通達九一頁が、「課税時期において、現に建築中の家屋の価額はその家屋の費用原価の一〇〇分の七〇に相当する金額によって評価する」と定めていることから、課税実務上、建築中の家屋は、当然に相続財産に含めた処理がなされている。)。
<3> 昭和六三年末の時点で、「サンライト原」の建物の三階部分までは内装工事も終わった状態であったこと、建築代金についても約三分の二が支払われていたことに照らせば、遅くとも昭和六三年一二月三一日までには、注文者である久人が、一階から三階部分までの区分所有権を取得したというべきであり、「サンライト分」の一階から三階部分までの各部分所有建物は、買換資産に該当する。
(2) 本件更正処分は、買換特例の適用の承認につき従前の運用と異なる処分をしたものとして、被告に、裁量権の不当行使があるといえるか否か。
(原告らの主張)
課税庁は、昭和六三年当時、買換資産につき登記が終了していないものについては、取得期限の延長に係る承認の申請がなされていなくても、買換終了後に修正申告が提出されるのを待って、登記が遅れた理由につき担当者が買換承認申請者に問い合わせをした上で、申述書又は嘆願書を提出させ、期限後三か月内に登記完了したものは買換特例の適用を認める取扱いをしていたにもかかわらず、本件に限って、登記が遅れた理由につき担当者から何らの問い合わせもなく、税務調査の段階でも同様であった。
(二) 本件ビデオの買換資産該当性の有無
(被告の主張)
本件ビデオ制作費については、支払に見合う反対給付が存在しないから、事業上の必要経費たる性質を有さず、また、措置法三七条一項の表中一四号下欄イの減価償却資産にも該当しない。
(三) 火災保険料が買換資産の取得費に該当するか否かについて
(被告の主張)
居住用建物に係る火災保険料は、火災による居住用資産の経済的価値の滅失・減少を補うために支出する家事上の経費であって、所得税法七七条に規定する損害保険料控除の対象として取り扱われるべきものであり、事業用建物に係る火災保険料は、事業所得又は不動産所得の金額の計算上、一般管理費として必要経費に算入すべきものであって、本件居住用買換資産及び「サンライト室見」の各火災保険料は買換資産の取得に要した金額に当たらない。
(四) 「サンライト室見」の不動産所得税が買換資産の取得費に該当するか否かについて
(被告の主張)
「サンライト室見」は業務用資産に該当するので、その不動産取得税は、当該業務にかかる必要経費となり、買換資産の取得費には含まれない。
(五) 分離長期譲渡所得の金額の算定
5 損益通算後の分離長期譲渡所得の金額、納付すべき税額及び過少申告加算税の有無・税額について
第三争点に対する判断
一 本件通知書が所得税更正期限内に久人に対して送達されたか否か(争点1)について
1 本件における久人の昭和六二年分所得税の更正期限は平成三年三月一五日であるところ、本件通知書が久人に送達された日につき、被告は同日である旨主張し、乙第七号証(本件通知書の送達記録書。以下「本件送達記録書」という。)には、平成三年三月一五日午後六時七分ころ、久人の自宅玄関において本件通知書が久人に直接手渡され、久人がこれを受領している旨の記載と受取人としての久人の署名押印がなされている。
2 この点につき、原告らは、本件通知書が久人に送達されたのは同年三月一六日以降であり、本件送達記録書久人自身が記入した箇所は受取人署名押印欄のみで、送達日、送達時刻、送達場所及び備考欄は、すべて被告側で記載したものであって、本件送達記録書は、同年八月一二日ころ、本件異議決定書謄本が久人に送達された際に久人が署名押印した送達記録書に、送達日を同年三月一五日とするなどの虚偽の補充をした疑いがある旨主張し、久人も本人尋問において、本件通知書の送達を受けたのは同月一六日であったと思う旨の供述をしている。
3 しかし、証拠(乙第八号証、亡久人本人)によれば、本件異議決定書謄本の送達記録書は別に存在すること(送達日は同年八月一三日。)及び本件通知書が送達された際に久人が署名押印した送達記録書は一通のみであることが認められるのであり、被告が、本件異議決定書謄本の送達記録書に虚偽の補充をした事実もなんら窺われず、久人の前記供述の前提である受領日に関する記憶自体もあいまいであるから、久人の前記供述は採用できない。したがって、本件通知書は、本件送達記録書(乙第七号証)記載のとおり、同年三月一五日に久人に送達されたものと認めるのが相当である。
4 よって、本件通知書は、更正期限内である平成三年三月一五日に久人に送達されたものと認められ、本件更正処分には、更正期限を徒過した違法はない。
二 本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合(争点2)について
本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合は、分離長期譲渡所得の金額の算定に当たり、その敷地である本件譲渡資産の居住用部分と事業用部分の割合を示すものであるとともに、事業所得の減価償却費算定の前提ともなるものであるので、以下検討する。
1 更正期限後の理由の差し替えの許否(争点2(一))について
(一) 証拠(乙第一号証)によれば、被告が、本件原更正処分においては、本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合の算定に関して、本件鉄筋店舗の三階部分を居住用部分と認定していたことが認められるところ、原告らは、被告が本件原更正処分においては本件鉄筋店舗の三階部分が居住用部分であるとしながら、本訴訟においては、前記のとおり、右三階部分を事業用部分と主張していることをもって、更正期限後における主張の変更に当たり、そのような主張の変更は、理由付記の趣旨に反し、許されない旨主張する。
(二) 証拠(乙第一号証、第五号証)によれば、本件審査請求の手続において、久人は、本件鉄筋店舗の二階部分及び三階部分が居住用との本件原更正処分の認定に対し、居住用部分は、本件鉄筋店舗の二階部分と本件付属事務所の二階部分であり、それ以外を事業の用に供していた旨主張し、本件審査裁決においては、右久人の主張どおりの認定を行っており、被告は、本訴訟において、本件審査裁決どおりの理由を主張していることが認められるところ、本件審査裁決によって本件原更正処分が一部取り消された場合には、当初から本件審査裁決によって取り消された部分を除く内容の処分があったのと同様の効果を生じるものというべきであり、さらに本件審査裁決が、久人の主張どおりの認定を行っていることに照らせば、被告が、本訴訟において、本件審査裁決どおりの理由を主張することにより、本件更正処分を争うにつき、原告らに格別の不利益を与えるものではないことは明らかであるから、被告が本訴訟において本件審査裁決どおりの理由を主張することが、青色申告における理由付記の趣旨に反し、許されないものではないことは明らかである。
(三) よって、この点に関する原告らの主張は、これを採用することはできない。
2 本件原更正処分において、被告の本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合の認定に論理矛盾が存在することが本件更正処分の取消事由となるか否か(争点2(二))について
(一) 原告らは、本件原更正処分においては、事業所得の減価償却費の算定に当たり、本件鉄筋店舗の二階部分及び三階部分を事業用として使用されていたものと認定して本件鉄筋店舗の事業専用割合を三三パーセントとしているのであるから、右認定に従えば、本件地上建物に占める居住用部分の割合は、別表12の原告ら主張欄に記載のとおり、三四・〇七五パーセントとなるにかかわらず、分離長期譲渡所得金額の算定においては、本件確定申告及び本件修正申告のとおり、居住用部分の割合を二〇パーセントとする論理矛盾を犯している旨主張する。
(二) しかし、審査裁決によって原更正処分が一部取り消された場合には、当初から右審査裁決によって取り消された部分を除く内容の処分があったと同様の効果を生じるものというべきところ、証拠(乙第一号証)によれば、本件原更正処分においては原告主張のとおりの認定がなされているものの、本件審査裁決においては、本件鉄筋店舗の二階部分及び本件付属事務所の二階部分が居住用部分と認定され、居住用部分の割合については、事業所得の減価償却費の算定においては、本件鉄筋店舗の二階部分床面積八二・九四平方メートルを本件鉄筋店舗の総床面積二四七・三〇平方メートルで除した三三パーセント、分離長期譲渡所得金額の算定においては、本件鉄筋店舗の二階部分及び本件付属事務所の二階部分の合計床面積一〇六・〇八平方メートルを本件地上建物の総床面積五五四・七二平方メートルで除した割合である一九・一二パーセントに照らして、相当と認められる久人と被告との間で争いのない割合である二〇パーセントとされていることが認められ、事業所得の金額の算定におけるのと分離長期譲渡所得金額の算定におけるのとで、本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合の認定に何ら論理矛盾は存在しないから、本件原更正処分に論理矛盾が存在することをもって、本件更正処分の取消しを求めることはできないものというべきである。
(三) よって、この点に関する原告らの主張も、これを採用することはできない。
3 本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合(本件鉄筋店舗の三階部分が居住用として使用されていたか否か・争点3(三))について
(一) 本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合の算定に関して、被告は、本件鉄筋店舗の三階部分は事業用として使用されていた旨主張するが、原告らは、居住用として使用されていた旨主張し、久人も、本人尋問において、三階は自宅の寝室及び同人の妻の踊りの練習場として使用していた旨の供述をし、鶴税理士も、証人尋問において、これに沿う供述をしているので、以下検討する。
(二) 証拠(乙第一号証)によれば、本件審査請求において、久人が、本件鉄筋店舗の二階部分及び本件付属事務所の二階部分を居住の用に供し、その他の部分をゴルフクラブの制作、店舗・展示場、ゴルフレッスン場等の事業の用に供していたと主張していたこと、国税不服審判所が、本件鉄筋店舗の利用状況について、久人の使用人であった芦馬光夫(以下「芦馬」という。)及び秋山勝(以下「秋山」という。)に質問したことろ、右両名は、本件地上建物のうち久人が居住用に供していたのは本件鉄筋店舗の二階部分及びその奥にあった二階建の建物(すなわち本件付属事務所)の二階部分であるとして、右本件審査請求における久人の主張と一致する答述をしたことが認められ、右事業に照らせば、本件鉄筋店舗の三階部分は事業用として使用されていたものと推認される。
(三) この点につき、原告らが、本件鉄筋店舗の三階部分が居住用として使用されていたことを証する本件地上建物等の写真として提出している甲第四号証からは、踊りの練習場として使用されていたのがどの建物のどの部分であるのかが不明であり、また、本件鉄筋店舗の三階に寝室として使用されていた部屋の存在も窺われないのであり、証拠(乙第二号証、第一六号証の二、第一七号証の三)によれば、久人は、本件確定申告においては本件地上建物のすべてを事業用と申告し、本件異議申立時及び本件審査請求における審査請求理由書(乙第一七号証の三)においては、本件付属事務所の二階部分及び本件鉄筋店舗の三階部分の二分の一を居住用部分であると主張するなど、本件鉄筋店舗の居住用部分にかかる主張を変遷させていることが認められ、前記のとおり、本件確定申告、本件異議申立て、本件審査請求のすべての手続が鶴税理士によって行われていることも考えあわせると、前記久人及び鶴税理士の各供述は直ちに採用することはできないというべきであり、他に前記推認を覆すに足りる証拠はない。
(四) よって、本件鉄筋店舗の三階部分は事業用として使用されていたものと認められ、本件地上建物においては、本件鉄筋店舗の二階部分及び本件付属事務所の二階部分が居住用部分であり、その割合は、別表12の被告主張欄記載のとおり、二〇パーセントとなるから、本件地上建物の居住用部分と事業用部分の割合は、被告主張のとおり、二〇パーセント対八〇パーセントと認めるのが相当である。
三 事業所得の損失額(争点3)について
1 減価償却費(争点3(一))について
(一) 証拠(乙第一ないし第四号証、弁論の全趣旨)によれば、昭和六〇年分決算書に記載されている「工場改装」の取得価額は金三一七万二一〇〇円であり、昭和六一年分決算書及び昭和六二年分決算書に記載されている右取得価額は各金八一七万二一〇〇円であって、金五〇〇万円増加していること、昭和六〇年分決算書に記載されている「屋上防水」の取得価額は金二三〇万円であり、昭和六一年分決算書及び昭和六二年分決算書に記載されている右取得価額は各金七三〇万円であって、金五〇〇万円増加していること、昭和六〇年分決算書には記載されていなかった「事務所他一階」の取得価額が、昭和六一年分決算書から金一五三二万四〇〇〇円の資産として計上されていること、これら取得価額の変更及び新たな取得価額の計上の事実につき、本件審査請求の手続において、国税不服審判所がこれを証する証拠の提出を久人に求めたところ、久人は右事実を証する書類はなく、過去に建物の改造等をしたはずだから、それらの事実に則して計上したものである旨答述し、何ら証拠書類を提出しなかったこと、「屋上防水」は本件鉄筋店舗に係るものであり、久人の元使用人であった芦馬及び秋山が、本件原更正処分の調査の過程において、被告に対し、本件鉄筋店舗に係る屋上防水以外に大規模な改造工事が行われたことはない旨申述していること、久人は、昭和五七年分から昭和六〇年分の各青色申告決算書において、「事務所他一階」の減価償却費を計上しておらず、右「事務所他一階」は、不動産登記簿上、昭和二八年七月に取得された本件モルタルインドアと同時期に取得され、その取得価額は本件モルタルインドアの取得価額に含まれていると見られることが認められ、右各事実を総合すれば、当該取得価額の変更及び新たな取得価額の計上について、これらの証拠となる事実はなかったものと推認される。
(二) この点につき、原告らは、久人の減価償却費の申告額は適正である旨主張し、鶴税理士は証人尋問において、「工場改装」の取得価額の変更の事実につき、鶴税理士の前任者の税理士が作成した昭和六〇年分の減価償却費の明細書に記載の漏れがないかどうか久人に確認したところ、金五〇〇万円かかったとの返答があったため、追加したものである旨供述するが、他方、久人自身は、本人尋問において、右金五〇〇万円の増加につき、税理士に任せており、分からない旨供述しているのであり、右久人の供述に照らせば、前記鶴税理士の供述を採用することはできず、他に、前記推認を覆すに足りる証拠はない。
(三) 以上のとおり、「工場改装」及び「屋上防水」の取得価額の変更並びに「事務所他一階」の取得価額の計上について、これらの根拠となる事実はなかったものとして、被告が、昭和六〇年分決算書の記載に基づいて償却の基礎となる金額の算定をしたことは、適正であるというべきであり、前記のとおり、本件鉄筋店舗(床面積合計二四七・三平方メートル)のうち、事業用部分は、一階部分(床面積八一・四二平方メートル)及び三階部分(床面積八二・九四平方メートル)であって、本件鉄筋店舗及びその屋上防水に係る事業専用割合は、次の計算式のとおり六七パーセントとなるのであるから、証拠(乙第一号証、弁論の全趣旨)によれば、久人の昭和六三年分の事業所得の算出に当たって、費用経費に算入される減価償却費は、別表10記載のとおり合計金三四万四七三一円(各項目の算出根拠は別表13(期末未償却残高算定表)No.1ないしNo.7のとおり。)、合計金三四万四七三一円であると認められる。
(計算式)
(八一・四二+八二・九四)÷二四七・三=〇・六七
2 資産損失(争点3(二))について
(一) 建物及び構築物の除却損額について
建物及び構築物の除却損額を、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することの適否につき検討するに、所得税法五一条一項は、事業所得を生ずべき事業の用に供されている固定資産の「取りこわし」等の事由により生じた損失の金額は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入すると規定しているが、「資産の譲渡により又はこれに関連して生じたものを除く」としているところ、前記のとおり、本件地上建物等は、本件譲渡資産たる土地を更地として譲渡するために、右譲渡に際して取り壊されているのであるから、修正申告(本件確定申告に同じ。)において除却損額の対象とされている本件建物及び構築物は、資産の譲渡に関連して取り壊され又は除却されたものと認められ、したがって、右除却損額は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できないものというべきである。
(二) 車両の除却損額について
車両の除却損額を必要経費に算入することの適否につき検討するに、証拠(乙第一号証)によれば、本件審査請求において、久人は、本件修正申告(本件確定申告に同じ。)において除却損額の対象とされた車両(以下「本件車両」という。)は、久人が事業を廃止する際に、使用人であった芦馬に対して無償で譲渡したものであると主張していたこと、芦馬は、本件審査請求の手続において、国税不服審判所に対し、久人から本件車両を譲り受けた後、約一年間これを使用し、その後に自ら廃車した旨供述していることが認められるから、右事実に照らせば、本件車両は久人が芦馬に対して無償で贈与したものであり、久人自身が本件車両を廃棄したものではないことが推認されるから、本件車両の除却損額を、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできないものというべきである。
(三) 資産損失の額について
以上のとおり、被告が、建物及び構築物の除却損額並びに車両の除却損額を、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入しなかったことは、適正であるというべきであり、証拠(乙第一号証、弁論の全趣旨)によれば、資産損失の額は、別表10記載のとおり、合計金三八万二三四二円であると認められる。
3 事業所得の損失額の算定(争点3(三))について
久人の事業所得の損失額を計算する基礎となる収入金額、売上原価、専従者給与の額が、別表2記載のとおりであることは当事者間に争いはなく、前記のとおり、原価償却費は金三四万四七三一円、資産損失は金三八万二三四二円であるから、久人の事業所得の損失額は、被告主張のとおり、金一九六九万九二九七円であると認められる。
四 分離長期譲渡所得の金額(争点4)について
1 「サンライト原」の買換資産該当性の有無(争点4(一))について
(一) 「サンライト原」の取得が、買換資産の取得期限(昭和六三年一二月三一日)内であったか否か(争点4(一)(1))について
(1) 久人が、買換資産の最終取得期限である昭和六三年一二月三一日までに、措置法三七条に規定する買換資産として「サンライト原」を取得したか否かについて検討するに、前記のとおり「サンライト原」の建築請負工事においては、建築材料はすべて広和住宅が提供しているところ、措置法三七条に規定する買換資産の「取得の日」とは、注文者の所有又は使用する土地の上に請負人が材料を全部提供して建築した本件のような買換資産については、特段の事情のない限り、注文者が請負業者から当該資産の引渡しを受けた日と解するのが相当であり、また、その引渡しの日は、建築業者が作業を完了した日、注文者が検収を完了した日及び注文者において使用収益ができるようになった日等により判断すべきものというべきである。ところで、証拠(乙第一号証、証人鶴、亡久人本人)によれば、広和住宅の代表取締役濱地重明は、国税不服審判所に対し、「サンライト原」が完成したのは平成元年二月であり、昭和六三年一二月末の時点では建物全体の八割程度が完成していた旨、また、「サンライト原」を久人に引き渡したのは登記の日である平成元年二月二三日であり、鍵の引渡しが約一か月遅れたのは建物の手直し工事をしていたためである旨答述したこと、昭和六三年一二月末の時点での建物の建築状況につき、久人は、四階までできおり、五階部分については工事中であると認識していたこと、同じく鶴税理士は、三階までは内装工事も終了していたが、四階については内装に取りかかったばかりで、五階についてはコンクリートも流し込んでいない状態であったと認識していたことなどが認められ、右各事実を総合すると、買換資産の取得期限である昭和六三年一二月三一日の時点では、「サンライト原」の建物は未完成で、久人が広和住宅からその引渡しを受けられるような状態ではなく、現に、久人が広和住宅から引渡しを受けていなかったことが認められる。
(2) これに対し、原告らは、久人は買換え資産の最終取得期限である昭和六三年一二月三一日までに「サンライト原」を取得したと主張し、その論拠として、前記第二の二の4(一)(1)の(原告らの主張)<1>ないし<3>の点を挙げている。
(3) まず、右原告らの主張<1>の点(昭和六三年一二月三一日までに久人が「サンライト原」の所有権を取得している旨の主張)につき検討するに、措置法三七条に規定する買換資産の「取得の日」は、前記(1)記載のとおり、注文者が請負業者から当該資産の引渡しを受けた日と解されるが、これは、措置法三七条の趣旨に鑑み、買換資産の「取得の日」は、経済的実質的に把握されるべきことから導き出されるものであって、法的観点における所有権取得の日と必ずしも同一に取り扱うべきものではなく、また、請負契約においては、完成した建物の所有権は請負人が原始取得するのが原則であり、注文者が所有権を取得するのは、特段の事情のない限り、当該建物の引渡しを受けた時と解されることからしても、その合理性を肯定できるというべきである。
なお、原告らは、買換資産の「取得の日」を経済的実質的に把握するのであれば、買換資産の引渡しを受けたという事実よりも、買換資産取得の対価を支払ったという事実を重視すべきであり、したがって、買換取得期限である昭和六三年一二月三一日までに支払った金額(原告ら主張額金一億二三八〇万円)については、買換特例適用を認めるべきである旨主張するが、措置法は、単一の買換資産の対価の一部についてのみ、残部と切り離して買換特例の適用を認めることを許容するものではないから、原告らのこの点に関する主張も、採用することはできない。
(4) 次に、原告らの主張<2>の点(相続税の取扱いとの一貫性の主張)につき検討するに、原告ら主張の評価通達は、相続税における建物評価の原則が固定資産税評価額によっているところ、建築中の家屋には固定資産税評価額がないことなどより、本来、自己が建築する建築中の家屋の評価方法を統一する趣旨で設けられたものであるが、近年、請負契約による建築中の家屋につき、請負者・注文者とも、実質的には注文者のものと認識しているという見方が一般的となったため、この場合にも当該家屋について自己が建築する場合と同じ扱いをすることとしたものであって、当該家屋の取得時期を規定する趣旨のものではないから、引渡しがないとの理由で買換資産性を否定する取扱いは、相続税の場合の取扱いと何ら矛盾するものではなく、したがって、原告らのこの点に関する主張も、採用することはできない。
(5) 原告らの主張<3>の点(区分所有建物としての取得の主張)につき検討するに、証拠(甲第六号証)によれば、「サンライト原」は、そもそも、区分処分建物として登記された建物ではないことが認められ、久人が取得した所有権も、建物全体に成立した一個の所有権であることが明らかであるから、各区分所有建物ごとに買換資産に該当するか否かを判断するという取扱いを受けるべきものではなく、このことは、「サンライト原」が実質的観点において、区分所有建物とみられるか否かには関わりのないことであって、また、区分所有建物ではない建物について、完成度合及びそれに伴って支払われた建築代金の額に応じ、工事完了部分の区分所有権の取得を課税に当たって考慮するとの取扱いは、租税法律主義の精神及び課税の公平の観点から許されないものというべきであるから、原告らのこの点に関する主張も、採用できない。
(6) 以上のとおり、原告らの「サンライト原」が買換資産に該当するとして主張する論拠はいずれも採用することはできず、「サンライト原」の買換資産該当性を認めることはできない。
(二) 本件更正処分は、買換特例の適用の承認につき従前の運用と異なる処分をしたものとして、被告に、裁量権の不当行使があるといえるか否か(争点4(一)(2))について
(1) 原告らは、課税庁は、昭和六三年当時、買換資産につき登記が終了していないものについては、取得期限の延長に係る承認の申請がなされていなくても、買換終了後に修正申告が提出されるのを待って、登記が遅れた理由につき担当者が買換承認申請者に問い合わせをした上で、申述書又は嘆願書を提出させ、期限後三か月内に登記完了したものは買換特例の適用を認める取扱いをしていたにもかかわらず、本件に限って、登記が遅れた理由につき担当者から何らの問い合わせもなく、税務調査の段階でも同様であったが、このような被告の取扱いは、裁量権の不当行使である旨主張し、鶴税理士も、証人尋問において、これに沿う供述をするので検討するに、右鶴税理士の供述は、自分が担当した、買換資産の取得期限内に登記ができなかったもの一〇件余りにつき、本件を除いては買換特例の適用を受けられたとするものにすぎず、また、同証人が、右取扱いが慣行となっていたことの証左として挙げる、着工されており、代金の二割を払っていれば買換特例の適用を認める旨の通達は、平成三年一月に発出されたものであるというのであるから、昭和六三年同時の取扱いの証左となり得るものではなく、他に、昭和六三年当時、買換特例の適用について原告の主張するような取扱いが一般的になされていたと認めるに足りる証拠はないから、原告らの主張は、その前提を欠くものである。
(2) また、仮に、昭和六三年当時、買換特例の適用について原告らの主張するような取扱いが一般的になされていたとしても、前記(一)(1)記載のとおり、「サンライト原」については、建物の完成引渡自体が遅れていたのであり、単に登記が遅れていたというにとどまらないから、被告の取扱いに、原告らの主張するような裁量権の不当行使はないものというべきである。
(3) よって、この点に関する原告らの主張は、いずれにせよ採用することはできない。
2 本件ビデオの買換資産該当性の有無(争点4(二))について
本件ビデオが買換資産に該当するか否かにつき検討するに、措置法三七条の適用を受ける買換資産に該当するためには、その取得の日から一年以内に事業の用に供する(または供する見込みである)減価償却資産でなければならないところ、証拠(乙第一号証、弁論の全趣旨)によれば、昭和六二年三月、久人が本件ビデオの制作費として、ケージーアール出版に対して、金一〇〇〇万円を振り込んでいることが認められるが、右振込の直前である昭和六一年一二月一二日には、久人は本件譲渡資産の売買契約を締結しており、ゴルフクラブの製造販売業を廃止する準備をしていたことが認められ、右事実に照らせば、本件ビデオは事業の用に供する(または供する見込みである)ものとは認められず、また、措置法三七条一項の表中一四号下欄イの減価償却資産にも該当しないから、買換資産に該当しないものというべきである。
なお、証拠(乙第一号証、弁論の全趣旨)によれば、久人は制作されたビデオ五〇〇本のうち一本しか所有していないこと、ケージーアール出版は久人からビデオの制作費として受領した金額から実際に制作に要した額を控除した残額を昭和六三年三月期において、雑収入として計上していることなどが認められ、右事実を総合すれば、本件ビデオ制作費は、久人の業務遂行上の費用とは認められず、したがって、事業所得の計算上、必要経費の額に算入できず、繰延資産にも該当しないものというべきである。
3 火災保険料が買換資産の取得費に該当するか否か(争点4(三))について
本件買換えに際して久人が出費した火災保険料が買換資産の取得に要した金額に当たるか否かを検討するに、居住用建物に係る火災保険料は、火災による居住用資産の経済的価値の滅失・減少を補うために支出する家事上の経費であって、所得税法七七条に規定する損害保険料控除の対象として取り扱われるべきものであり、事業用建物に係る火災保険料は、事業所得又は不動産所得の計算上、一般管理費として必要経費に算入すべきものであるから、買換資産の取得に要した金額に当たらないというべきである。
4 「サンライト室見」の不動産取得税が買換資産の取得費に該当するか否か(争点4(四))について
「サンライト室見」の不動産取得税が買換資産の取得に要した金額に当たるか否かを検討するに、前記のとおり、「サンライト室見」は業務用資産と認められるから、その不動産取得税は当該業務にかかる必要経費となり、買換資産の所得に要した金額に当たらないというべきである。
5 分離長期譲渡所得の金額(争点4(五))について
以上のとおりであるから、本件買換資産の取得費は、居住用買換資産については本件修正申告における計上額金四億三六〇三万六二八八円から火災保険料金三万二七五〇円を差し引いた金四億三五七二万三五三六円、事業用買換資産については本件修正申告における計上額金三億一〇五四万二六八〇円から不動産所得税金六六万〇五〇〇円、火災保険料金五万二五〇〇円、「サンライト原」の建物取得費金一億九一一六万二二三〇円、本件ビデオ制作費金一三八〇万〇八〇〇円を差し引いた金一億〇四八六万六六五〇円であり、証拠(乙第一号証、第五号証、弁論の全趣旨)によれば、譲渡費用として、本件確定申告及び本件修正申告において久人が申告した金額(居住用部分金一三四二万五四一九円、事業用部分金五三七〇万一六七九円)に加え、居住用部分の除却損として本件鉄筋店舗及び屋上防水の金一九八万五九五三円(その算出根拠は別表14記載のとおり。)、事業用部分の除却損として、本件モルタルインドアの未償却残高九万〇三六〇円(その算出根拠は別表13のNo.1記載のとおり。)、本件鉄筋店舗及び屋上防水の未償却残高金三八〇万二二八九円(その算出根拠は別表13のNo.2記載のとおり。)に事業専用割合六七パーセントを乗じて得た事業用部分の未償却残高金二五四万七五三三円、工場改装の未償却残高金四三万四六一〇円(その算出根拠は別表13のNo.3記載のとおり。)、駐車場の未償却残高金一万八二三六円(その算出根拠は別表13のNo.4記載のとおり。)アスコン改装の未償却残高金三三万九七八二円(その算出根拠は別表13のNo.5記載のとおり。)の合計金三四三万〇五二一円が、それぞれ譲渡費用となることが認められ、その結果、譲渡費用は、居住用部分が金一五四一万一三七二円、事業用部分が金五七一三万二二〇〇円となるから、分離長期譲渡所得の金額は、別表11記載のとおり、金一四億九七六九万九六四九円となる。
五 損益通算後の分離長期譲渡所得の金額、納付すべき税額及び過少申告加算税の有無・税額(争点5)について
以上によれば、損益通算後の分離長期譲渡所得の金額、納付すべき税額及び過少申告加算税の税額については、被告主張額である別表8の審査裁決欄記載のとおり(なお、所得控除額が金八一万〇三〇〇円であることは当事者間に争いがない。)であると認められる(納付すべき税額の算式は別表15記載のとおり。)。
第四結論
以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、いずれも理由がない。
(裁判長裁判官 寺尾洋 裁判官 團藤丈士 裁判官 竹内ゆみ)
経過一覧
<省略>
別表1
昭和六二年分所得税の確定申告
<省略>
別表2
昭和六二年分所得税の確定申告中の事業所得の損失額の計算
<省略>
別表3
昭和六二年分所得税の確定申告中の分離長期譲渡所得の金額の計算
<省略>
別表4
昭和六二年分所得税の修正申告
<省略>
別表5
昭和六二年分所得税の修正申告中の分離長期譲渡所得の金額の計算
<省略>
別表6
昭和六二年分所得税の修正申告
<省略>
別表7
「取消額等計算書」
(昭和62年分申告所得税)
<省略>
4 課税標準等及び税額等の計算
<省略>
別表8
本件修正申告、本件各原処分及び本件審査裁決の比較表
<省略>
別表9
確定申告に係る減価償却費の計算明細表
<省略>
別表10
減価償却費の計算明細表
<省略>
別表11
被告主張の分離長期譲渡所得の金額の計算
<省略>
別表12
本件譲渡資産の居住用割合の算出根拠
<省略>
別表13
期末未償却残高算出表 No.1
<省略>
<省略>
No.2
<省略>
<省略>
No.3
<省略>
<省略>
No.4
<省略>
<省略>
No.5
<省略>
<省略>
No.6
<省略>
<省略>
No.7
<省略>
<省略>
別表14
鉄筋店舗・屋上防水の居住用部分の未償却残高
<省略>
別表15
分離課税の長期譲渡所得の税額の計算
(1) 課税される所得金額
<省略>
(2) 税額の計算(租税特別措置法31条)
<省略>